江國香織『東京タワー』新潮文庫

少し前に映画化もされて、話題になった本。
ふっと衝動買いしてしまった(なぜか『壁』といっしょに)。

率直な感想・・・やはり、女性の側からのお話だなぁ、と。その所為もあってか、全体を通して猛烈に非現実的で、それが却って清々しくさえある。そして、感情移入がむずかしい。この二点を欠点と取る人には、良い小説には思えないだろう。

辻仁成の『サヨナライツカ』は「男のエゴ」を書いているという評があったけれど、この『東京タワー』はさしずめ「女のエゴ」の凝縮だろうか。二組のカップルを描いていて、それぞれ女の側は、(かなり)年下の恋人をもった女性が取るであろうリアクションのプロトタイプ(原型)を二つ、綺麗に描き分けた感じがする。一方、男の方のキャラクタは、それぞれの女性原型に合わせてしつらえた感があった。

細かな心理描写などでは、いかにも二十歳そこそこの大学生の男っぽさを巧みに演出している箇所もいくつかあって、そのあたりはさすがだと思ったけれど、全体としては、結局、女性寄りである。

それから、もう一つ。大きな年齢の隔たりを越えて、いかように愛は成立しうるのか、というテーマを追求してくれるのかと思いきや、全編に漂っていたのは、「結局は、越えるのは無理なんだ」という諦観である気がした。ただひたすら、悲しい。未来が見えない。読んでいても「なんだ、やっぱりそうなのか・・・」と思わされただけだった。

一言でまとめると、この小説、僕には少し美しすぎたように思う。


というわけで、次は『サヨナライツカ』を読んでみるか・・・。