・昨日のことだけれど、養老孟司『無思想の発見』(ちくま新書)を読んだ。極めて刺激的な内容だったけれど、ひとことで言えば、「思想という抽象化の心地好さに逃げずに、常に生々しい具体的な身体的経験から考えるようにしてみてはどうか。」という提言の書。氏がMark Johnsonのことを知っているかどうかは分からないが、大局的に言って、同じ方向の考えだと思う。養老さんが言語学をしていたら、認知言語学の立場だっただろう。
・本文中にもあったが、養老さんの発言は結構過激なので、脅迫電話をしてくる読者もいるらしい。それだけ真実に迫っているからだろうと思う。誰も賛同はしてくれないかもしれないが、僕は村上春樹の小説とも重ねて考えたくなる。(特に初期の)村上小説は、「これを小説に書いちゃいけないなんて、誰が決めた?」といわんばかりに、それまで日本では誰もが書かなかった(書けなかった)ものを書いている感じがするのだ。養老氏の言明も、それと同じ空気を持っているように感じる。
養老孟司茂木健一郎は、今、日本で最も重要な発言をしているインテリだと思う、個人的に。おそらくこの人たちの功績の一つは、科学と批評という、これまでは別次元あつかいされていた営みが実はひとつづきなんだと身をもって示していることだろう。長い年月をかけてさんざんに分断されたものごとが、これから少しずつ繋がりを取り戻してゆくことを願う。