セルゲイ・ラフマニノフといえば、19世紀から20世紀初頭にかけて活躍したロシア出身の作曲家であり一級のヴィルトゥオーゾだった人だが、日本ではそこまで知名度は高くないように思われる。
有名な曲は「ヴォカリーズ」だとか「パガニーニの主題による狂詩曲」の第18変奏とか、交響曲2番の第三楽章の冒頭部などが挙げられるだろうか。特徴は、「甘い甘いメロディ」のひと言に尽きるかもしれない(R. Sakamotoは「過剰に甘い。アメリカのケーキみたい」とどこかで言っていた)。
クラシック音楽の伝統からすれば、やはり「異端」だったのかもしれない。確かにラフマニノフの曲は概してロマン派の域を超えて「俗っぽさ」みたいなものがそこかしこに嗅ぎ取れる。同時代にスクリャービンが俗世界とは隔絶された内的世界にのめり込んでいったのとは対照的に、とにかく外に向かって音楽を開放していった、という感じがする。「交響曲はこうあるべき」「協奏曲はこうあるべき」「ピアノ・ソナタはこうあるべき」という雛形に縛られず、ただただ自分の好きな音楽を書き続けたのだろうと想像する。
しかし、既存のものを打ち砕いた革命児、というわけでもない。そういう意味ではむしろ保守的だったようだ(「チャイコフスキーに帰れ」がモットーだったそうな)。だから、「自由人」というのが個人的な印象。のびのびと、自分のピアノの技術と造詣を余すことなく使い切って、何も押さえず、無理な力もなく、好きなように作曲していたに違いない。
とはいえ、常に楽しく過ごしていたわけではない。交響曲1番を酷評されたことを気に病んで3年間何も書けなくなっているあたりなど、なかなか普通の人っぽくて好感が持てる。いわゆる「神がかりな天才」というほどの才能の持ち主ではなかったのだろう。実際、ベートーベンやバッハやシューベルトドビュッシーに比べると、やや聴き劣りすることは否定できない。

しかし、だ。僕は個人的にこの作曲家の曲が凄く好きだ。聴いていると、実は音楽のジャンルなんていうものはあまり意味がなくて、一番大事なのは聴いて良いと思えるかどうかというその一点だけなんだという清々しいまでにシンプルな原理を実感できるからだ。

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で、個人的なラフマニノフ・ベスト10です。(部分的にマニアックです)

1. 交響曲第2番第3楽章(美しい旋律の代名詞)
2. ピアノ・ソナタ第2番(とくに2楽章。短縮版の方が○)
3. 10の前奏曲 作品23 第4番 (特にアレクシス・ワイセンベルクの録音)
4. 音の絵 第7曲
5. ピアノ協奏曲第2番
6. ヴォカリーズ
7. ピアノ協奏曲第3番(映画「シャイン」ですね)
8. チェロ・ソナタ(とくに第3楽章)
9. 楽興の時 作品16 第3曲
10. パガニーニの主題による狂詩曲 第18変奏