こんなカテゴリーを作ってみました。
(注:完全に、個人的趣味の世界です。ファンの方以外は読んでも疲れるだけですから飛ばしましょう)

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さて、今日は、普段はあまり聴かないものをひさびさに聴き直してみた。

変革の世紀

変革の世紀

L.O.L.(LACK OF LOVE)

L.O.L.(LACK OF LOVE)


坂本龍一の作品は、いろんな分類ができる。時系列に沿った分類も可能だが(○○年代=△△期、という風に)、作品の「濃さ」とでもいうべき基準でも分類ができる。

「手抜き」というのとは違うが、まったく同じ時期に作られたものでも、作品によって聴いていてこちらに迫ってくるアピールの仕方が全然違っていて面白いのだ。

上記の二作品は、いずれも2000年代に入ってからの作品。現在に繋がる一つの傾向がすでにはっきりと見え始めている。個人的には、シンプルさ、「音楽」から「音響」へのシフト、という二つがミレニアム以降の作品に聞かれる大きな特徴だと思う(「御法度」のサントラあたりから著しい。ちなみに、勝手に一人で「ミレニアム・シフト」とか呼んでいる)。
で、上で述べた「濃さ」の度合いを考えると、僕にはどちらも、比較的「薄め」に作られているなぁという印象を受ける。
一つはテレビ番組用、もう一つはゲームのための音楽。
どのくらい意識しているかどうかは別として、結局はそのメディアに「合わせて」音楽を作ってしまう(作ってしまえる)というのも才能なのか。近い時期に出ている映画音楽などと比べると、ひと回りふた周り、薄い。邪魔にならないBGMにできてしまう音楽だ。

しかし(これは好みの問題だろうけれど)、坂本龍一といえば、思わず「聴かされて」しまうような、「濃い」音楽性こそが魅力だと僕は思っている。99年に流行った「energy flow」も、当時は「癒し」の音楽と言われていたが、実は坂本龍一らしさが前面に出た「聴かす」音楽であったと思う。実際、あれは環境的BGMになぞ絶対にならない、自己主張の強い音楽だ。単にピアノだけの音だ、という理由でなんとなく癒されているような気分になるかもしれないが、巷に溢れる正真正銘「癒し」のためにだけに作られた壁紙的な音楽とは全くと言っていいほど趣を異にしている(本人は「適当に作った」みたいなことを言っていたような気がするが、基本的に坂本氏のその類の発言は鵜呑みにしてはいけないと思っている。わざと面白くしようとしていろんなことを誇張したりもしているはずだから)。

・・・と、ここまで考えたところで、これを聴き返してみた。

ザ・モスト・リラクシング〜フィール

ザ・モスト・リラクシング〜フィール

「癒し」ブームの初期に出たオムニバス。今でも大好きだが、ちょうど真ん中あたりに坂本龍一が入っていることに当時は違和感を覚えたものだ(もちろん今も)。というのも、その曲というのが「The Sheltering Sky」のピアノソロ(本人演奏)だったのだ。これは通しで聴いてみればすぐに分かることだが、このアルバム全体の中で、この一曲はかなり「浮いて」いる。ちょうどアルバムの真ん中あたりで一瞬だけ異世界に迷い込んで、そしてまた元に戻ってくる、という趣になっている。

これは何故なのか。理由は簡単で、「The Sheltering Sky」だけは、半端ではないエネルギーをかけて作られた、濃すぎるほどに濃い作品だからだ(そして、映画音楽)。元々の映画のテーマも内容も、半端なく濃い。他の曲を聴いていると、「たまたまいいメロディが浮かんだ→勢いで楽譜にした」みたいな曲も結構ある。そんな中で「The Sheltering Sky」が浮くのは、ある意味論理的必然かとも思う。
(急いで付け加えると、僕は他の「薄い」音楽が駄目だとか言いたいわけではなく、あくまでタイプの違いを強調したいだけです)

結局、いいたかったのは、
坂本龍一が音楽家として真価を発揮するのは、恐ろしいほどのエネルギーを注いで作られた「濃い」音楽においてである。
ということ。

兎に角、「濃い」音楽家なのである。僕にとって。


次回は、坂本龍一の作品のなかでも突出して「濃い」作品をピックアップしてみたいと思う(たぶん)